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雑感

「思考の尺度」について(学士会会報2004-VI No.849投稿分)

2004年12月25日

―知らぬ間に富士山に登頂した人はいない―昭和51年に京都大学工学部高分子化学科の西島安則研究室を卒業し、帝人株式会社に入社し11年間、愛媛県松山市の工場でポリエステルの重合関係の仕事に従事した。最初の3年間は三交代勤務で夜中の12時から朝8時までの夜勤が4日間続いたときのつらさ、そして朝、独身寮のベッドに入ったときの心地よさは今でも忘れることができない。製造業の現場の経験が今でも身にしみ込んでいる。その後、昭和62年にまったくの別世界である三井銀行に入り11年間東京とニューヨークでM&Aのアドバイザー業務に従事した。そして平成10年の秋にユニゾン・キャピタルというバイアウト・ファンドを5人で設立した。今でこそいくつものファンドが乱立状態にあるが、当時は、まだ日本に本格的なファンドもなく一般には無謀とも思われた船出であった。

しかしながら5年余り経過し何とか順調に成果を上げることができ、今年の7月には2号ファンドも立ち上がった。これを機に、ファンドからは引退し、現在は一橋大学大学院国際企業戦略研究科で社会人の人たちを中心にファンドやM&Aについての講義を行う傍ら、M&Aのアドバイザリー業務の会社も兼務している。
銀行のNY時代に、ふと感じたことを日記に記録することを始めた。何年もたって読み返してみると、当時の置かれた環境や仕事や人生に対する考え方が蘇ってきて興味深い。今回、学士会会報へ寄稿する貴重な機会を得て、ふとそれらを読み返してみた。以下は、平成10年10月18日に当時のさくら銀行時代の終わりの頃に、「思考の尺度」をテーマに書いたものである。

『久しぶりにいい天気だったので、自宅から駒沢公園に向け走り始めた。自宅からゆっくりしたジョギングで約20分のところに駒沢公園はある。公園の東京五輪記念塔前の噴水のある広場に着くと、若いアベックや家族連れが楽しそうにボール遊びをしていた。余りにいい天気なので、その広場の石のベンチに寝そべってみた。朝までの雨でベンチの上はきれいに汚れも洗い流されていた。鏡面状にツルツルした表面を背に仰向けに横たわると、秋の太陽が顔の右側を眩しく照らした。とにかく走るのは久しぶりだ。今日はどう走ろうか。96年にニューヨークから帰ってきたときに、何故か長い距離を走りたくなり、フルマラソンを走ろうと決意した。その後、週末、雪谷小学校近くの当時の自宅から中原街道に出、丸子橋のたもとから多摩川沿いに二子多摩川園まで走る片道約7キロのコースを走り始めた。雪谷は文字どおり谷になっているようで、往は上り坂がきつく、中途半端な決意で走り始めると最初の坂道で帰りだしたくなる。中学から大学まで野球部で、特に冬場に大勢で長距離を走り、競争になれているせいか走り出すとついつい速く走りたくなってしまう。多摩川沿いの河原に出るとすぐに昔の巨人軍のグランドがある。週末は朝から日が沈むまで少年野球などをやっている。野球が好きなので、左手に野球の試合を見ながら走っていると、足元の小石に気がつかずよろけてしまうことがある。巨人軍のグランドを過ぎ武蔵工業大学のグランドを越すと、後は犬の散歩をしている人達や若い二人連れなどとすれ違いながら一気に二子多摩川園まで突っ走る。東急の田園都市線のガードをくぐるとそこが往路のゴールだ。荒い息を自分で感じながら芝生の上で寝転がる。途中で歩きたくなっても走りつづけたささやかな充実感を感じながら約10分か20分休息をとる。帰りは、ゆっくり調整しながら家まで往きと同じ路を走り続ける。最後は急な下り坂を自然の力を利用して家まで辿り着く。
その後、10キロ、ハーフマラソンと距離を伸ばしフルマラソンに備えてきていたが、97年4月から約2ヶ月間、日債銀の子会社のクラウンリーシングの破産管財人の故三宅省三弁護士のアドバイザーをしていた間、人間の限界を超えるような超多忙状態になり、食事をする時間もないこともあり、睡眠時間も毎日3時間前後のことが多くなった。そうなると、心身共にクタクタに疲れて深夜床に入っても2時間くらいで目が覚めるようになる。勿論、休日も無く、私は、2ヶ月間で5月5日の一日だけ休んだのを覚えている。そうなると、週末走るような気力はまったく残っていない。そんなこともあり、週末走る習慣も、フルマラソンへの意欲も失せてしまい、それ以来約1年半の間走っていなかった。
とにかく今日はゆっくり、しかし長く走ってみようと思った。駒沢公園の約2150メートルのジョギングコースを、いつまでも走れるくらいのペースで走り始めた。1周目約15分かかった。とにかくゆっくりしたペースだ。走りながらこのペースでフルマラソンを走るとどの位のタイムになるか計算してみると、約5時間である。まあそんなものであろうと思いつつも、このペースでもマラソンを完走できないだろうなとも思いながらもくもくと走り続けた。いつも走っているときは、1周のペースからハーフやフルマラソンの完走時間を計算するのが常である。いつも掛け算や割り算をしながら走っている。頭の体操にもなる。2周目もほぼ全く同じく約15分で走ると、このまま自分のゆっくりペースがいつまで続くのだろうと思いだした。いつまでも続くような気がした。3周目、4周目もほぼ同じペース10秒も違わなかった。でも、今日は久しぶりなので5周でやめようと思ったが、最後の5周目は少しだけペースを上げてみることにした。5周目は13分30秒だった。このペースでもマラソン4時間40分位である。12分位で一周できないと4時間は切れないようである。ああしんどかったと、先程ベンチの上で寝そべっていた広場をゆっくりと歩き、石段を降り駒沢通りに出た。
大分長い時間、駒沢公園にいたような気がした。ところで今何時なんだろうと時計を見た。先程まで走りながら1周走る間だけでも何度も見ていた腕時計を見た。なんと走っている間に見ていたのは時計の“長針”と“秒針”だけだったのだ。あれだけ頻繁に腕時計を見ていたにもかかわらず時計の“短針”をみていなかったため時間が分からなかったのだ。「時計というものを見る目」、「時間を考える尺度」が違えば同じものを見たり考えたりしても入力されるものが違ってくる。走っていた間は、分秒単位でだけ思考していたのだ。同じものを見ても、見ようとする人の気持ち、思考の尺度によって、全く見え方が変わってくる。同じ腕時計を見ていても分秒ばかり見ていると時間が分からないように、時間ばかりに追われていると日にち単位のことが分からない。毎日に追われていると年単位のことが分からない。逆に年単位のことしか考えず、日々の進捗をなおざりにするといつまでたっても何も進まない。
ビジネスでも1億円単位のことばかり考えていると、100億円単位のビジネスのことは思いつかない。だからといって100億円単位のことばかり考えていると現実離れしてしまう。人間の思考尺度は柔軟に切り替え、大きく自らの方向性を確認しながらも、足元の緻密な作業を行う必要があるようである。』

以上、今読み返してみると、人間の思考尺度はカメラの焦点を合わすように柔軟に切り替え、遠くの自らの方向性を確認しながら、焦点を絞り足元の細密な部分を捉える必要があるということを当時考えていたようである。確かに状況に応じて柔軟にオートフォーカスできれば最高なのだろう。地図で渋谷のハチ公の像を調べようとして2万分の1の地図をいくら探しても渋谷は分かるがハチ公広場までは見えない。しかし、100分の1の地図だとハチ公広場が見つかる。だからと言って、最初から東京の100分の1の地図でハチ公広場を探してもなかなか見つからない。まず、2万分の1なんかの地図で渋谷を見つけてから縮尺を絞っていかなくてはいけない。これは、ビジネスでも同じで、まずは鳥瞰的に全体像を掴んだ上で焦点を絞って具体的な戦略を立てないといけない。人生においても同様で、足元ばかりにとらわれると迷走するし、ときどき正しい方向に向かっているか焦点を変えて見てみる必要がある。「天気がいいのでちょっと散歩していたら富士山の頂上にきてしまっていた」なんてことはない。富士山頂に登ろうという目標があって少しずつ頂上を目指してこそ初めて達成できることである。ファンド事業も一段落し、これから鳥瞰的に人生を見つめなおし、更なる目標を定めて一歩一歩前進して行きたいと考えている。



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